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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)99号 判決

アメリカ合衆国ニユーヨーク州ニユーヨーク市二〇

ロツクフエラー・プラザ三〇

原告

ラジオ・コーポレイション・オブ・アメリカ

右代表者

ハーバート・ジエイ・オー・バートン

右訴訟代理人弁理士

曾我道照

(ほか三人)

被告

特許庁長官

倉八正

右指定代理人通商産業技官

中村豊

同通商産業事務官

江口俊夫

主文

昭和三四年抗告審判第二二五六号

事件につき特許庁が昭和三六年三月九日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、双方の申立

原告は主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二、原告の請求原因

一、原告は昭和二九年一〇月一八日「静電的印刷」(審査過程において名称を「静電印刷用調整基体」に訂正、さらに「静電印刷等に使用する調整基体」に訂正した)なる発明につき特許出願をし、昭和二九年特許願第二二六九号として審査の結果審査官は拒絶すべき理由を発見しなかつたので、昭和三三年五月二九日出願公告決定をなし、同年八月一四日出願公告がなされたところ、訴外日本電信電話公社から特許異議の申立があり、その結果昭和三四年四月二四日拒絶査定がなされた。

原告はこれを不服として昭和三四年九月二九日抗告審判の請求をし、昭和三四年抗告審判第二二五六号として審理されたが昭和三六年三月九日「抗告審判の請求は成り立たない」との審決があり、その審決書の謄本は昭和三六年三月二九日原告に送達され、同審決に対する出訴期間は特許庁長官の職権により昭和三六年七月二八日まで廷長された。

二、審決の理由の要旨は、本願発明の要旨を「徴粉状光導電材料とフイルム形成用の材料又は液状媒体との混合物を被覆又は含浸した紙又は熱硬化性或は熱可塑性可塑物の基体を有し、混合物はその表面に暗黒時電荷を保持するに充分な誘電性質を有し、光導電材料は紫外線可視線、赤外線を含むスペクトル内に在る或る波長又は波長帯の光輻射に露出されたとき、且つその場所の前記表面を放電し得ることを特徴とする静電的印刷に使用する調整基体。」にあると認定した上、Journal of the Optical Society of America(一九四八年発行Vol.三八、№一二)第九九一頁乃至第九九三頁(以下引用例という)には、「多数の物質が光電導塗布の良い支持体として使用されていること」および「光導電物質よりも低い電気抵抗を持つ各種の紙、硝子、プラスチツクの上に光導電物質が附着(沈澱)された場合、これは充分な機能を果すものであること」が記歳されているとし、本願発明と引用例とを対比し、「両者は紙又はプラスチツク表面に光導電物質をもつて被覆した静電板である点において一致しており、ただ後者には前者の如く微粉状光導電材料とフイルム形成用の材料との混合物で被覆するとの記載がないだけである。しかしながら静電板において支持体に光導電物質をもつて被覆する場合、光導電物質にフイルム形成剤を配合して支持体に塗布し被覆することは斯界において極めて普通に知られていることであるから、結局この点に何等発明の存在が認められない。従つて本願の発明は引用例のものから当業者が容易に推考しうるものと認められ、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条の発明とは認められない。」というのである。

三、右審決は次の理由により違法である。

(一)  本願発明の要旨は審決認定のとおりであるが、引用例は乾燥印刷(Xerography)、すなわち静電印刷の初期のものを説明していて、(1)静電荷で板に感光性を与え、(2)この板を露光して静電像を造り、(3)出来た静電的の潜像を微粉で現像し、(4)粉像を紙又は他のものに転写し、(5)転写像を微粉の融着で定着する。以上五つの工程で完成する。しかして、今使用した板を次にきれいにして、他の写真印刷に再使用することができる。この引用例の方法は従来の転写式静電印刷用の調整基体で使用されている硫黄、アントラセン、アントラキノン、セレンまたはこれらの混合物の光導電性材料を使用するもので、光導電性絶縁材料の裏面に貼布された、例えば金属体のような裏張材を不可欠のものとする静電印刷板の製作を必要としている。導電性裏打材はたといその抵抗率が1010−Ω−cm程度の高いものであつても、光導電面を光像に露出した時面の各種区域から電荷を運び去るために必要である。しかし、本願発明では、上記のような光導電性材料ではなくして、種々の酸化亜鉛変体、沃化鉛、三硫化砒素、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、クロム酸鉛およびカドミウム、水銀アンチモン、蒼鉛、タリウム、インヂウム、モリブデン、アルミニウムの酸化物、テルル化物沃化物から成る群から選んだ光導電性質を使用するもので、これらの物質は暗所では静電的帯電状態を安定に保持し得るけれども、一旦光線に曝露されればその曝露された部分はそれが受けた光量に比例してなんら導電体の助けを藉りないで完全に放電し得る特性を有するものであるから、本願発明にかかる静電印刷用の基体は、感光性板が不要であるという構造上重大な差異がある。

(二)  引用例の方法では光導電物質を基体に真空蒸着するものであるに反して、本願発明では微粉状光導電物質とフイルム形成剤との混合物で支持体を被複乃至含浸するものであり、本件出願以前にこの点を記載した刊行物は知られていない。

(三)  本願の方法では感光性板が不要なため転写工程を必要としないという著しく便利な印刷法を可能ならしめ、操作が簡単である。従来の転写式静電印刷法で行われるような転写工程を包含する反覆印刷可能な印刷原版用のものではなくして、本願発明の調製基体は、例えば一枚の紙から成り、これに明細書に列挙せる特定の光導電材料を含浸させたものであつて、これに所望の画像、印刷物等を直接に一回だけ一挙に固定された恒久的印刷を得るためのものである。これを例えていえば、従来の転写式静電印刷用基体は、あたかも写真術における原版(すなわちたね板)に相当するものであつて、これを本源として別な印画紙に焼き付けることによつて、始めて目的の陽画を現出させるものであるから、仮りに一枚だけコツピーを作製しようとする場合にも、わざわざ原版上に粉末像を作る工程と転写工程とを必要とするのに対し、本願の調製基体はこのような転写工程を含まないで、この上に直接一挙に陽画に相当する印刷を行い得るいわは写真術における印画紙に該当するもので、その利用価値がはるかに大きいものであり、これは明らかに技術上格段の進歩をもたらすものである。すなわち、本出願人は像を保持すべき紙に直接像を形成する概念を本件出願で最初に明らかにし、またかかる簡易法を使用し得る紙の製作の仕方を見出したのである。従つて、本願発明にかかる静電印刷用の基体は、引用例その他の当時の公知の技術からなんら暗示されるものではない。しかるに、審決は引用文献の一部だけを取り上げて、静電印刷を行う工程に全然触れず、この前提の下に本件発明と引用例とを比較して、「引例が紙上に微粉状光導電材料とフイルム形成用の材料との混合物から成る被膜を明らかとしていない」ことを認めながら、両者の相違の重大性を極めて低く評価した。

(四)  さらに審決は、「光導電物質にフイルム形成剤を配合して支持体に塗布し被覆することは斯界において極めて普通に知られている」と述べて、本願発明の重要性を極めて低く評価した。本願方法は前記のような特殊の光導電性物質をフイルム形成材料または液状媒体と混合したものを紙面に含浸された点が特徴である新規な調製基体であるが、このような特定の光導電性物質を使用したもの、あるいはこのような光導電性物質をフイルム形成材料または液状媒質と混合して紙面に含浸したものも従来未知であり、しかもこれは当該技術から決して暗示されるものではない。引用例は光導電電体としてアントラセン、硫黄、セレンのみを挙げ、これを単に裏打材に塗るに過ぎない。本願発明で明らかにした光導電材とフイルム形成用の材料または液状媒体との混合物は、引用例に少しも記載されていない。

(五)  本願発明はその構成要素も、使用方法も、使用目的も引用の方法と全く別個のもので工業的に極めて有用なものであつて、当然特許に値するものであるにかかわらず、引用例のものから当業者が容易に推考しうるものと認め、旧特許法第一条の発明とは認められないとした審決は事実誤認、審理不尽、理由不備、経験則違背および特許法第一条ならびに第四条の解釈適用を誤つた違法を免れないのである。

第三、被告の答弁

一、請求原因一、二項の事実は認めるが、三項の主張は争う。

(一)  引用例には、「板を導電性支持体(backing)として役立たせるためには、照明下の光導電性層の等価抵抗値より低い比電気抵抗を持つことが、材質にとつてただ必要となるだけである。かくて約1010オーム・センチメートルの比抵抗を持つ材質は裏板材として使用できる。そのような材質は通常電気絶縁体であることも考えることが出来る。光導電材料の電気抵抗よりも低い比電気抵抗を持つている色々な種類の、紙、ガラス、プラスチツクの上に光導電性物質を附着(沈澱)すると板は充分に動作する」とあり、原告の主張する「金属性裏張材料を備えていることが絶対不可欠である」ような点は、この部分からなんら見出すことができない。また、技術的にみて引用例の板材に裏張りがなければ静電印刷が不可能であるとも考えられないから、原告の主張は引用例の記載を歪曲解釈したに過ぎない。従つて、本願方法と引用例とは金属性の裏張材料を使用しなくてもよいという点では格別差異がない。

(二)  引用例には「光導電材料を附着(沈澱)する」とあり、附着(沈澱)の手段が、具体的でないが、極く一般的な慣用手段として、蒸着、塗布または含浸以外には考えられないことであり、そして本願明細書二頁において光導電材料を含浸することが公知であることを認めている点からみても、引用例に附着手段が具体的に記載されていないという理由で本願方法と引用例とを実質的に区別することもできない。なお、原告は調製基体の使用法に差異があると述べているが、本件出願は方法自体を要旨とするものではない。従つて原告の主張は当を得ない。また、本願要旨は「静電的印刷に使用する調製基体」にあり、従つてこの基体を静電的印刷に使用するという点からすれば、引用例と本願の調製基体と使用目的に格段の差異があるとはいえない。

(三)  引用例には前記のとおり、「光導電材料の電気抵抗よりも低い比電気抵抗を持つている色々な種類の、紙、ガラス、プラスチツクの上に光導電性物質を附着(沈澱)すると板は充分に動作する」ことが記載され、「支持体に光導電物質が附着する」ことが明示され、さらにまた本願明細書に例示した公知例に、「紙に金属製裏張部材を貼付け、紙に光導電材料を含浸させる」とある点からみて、本願方法の光導電物質を支持体上に被覆又は含浸することは容易にできる程度のことであるのは当然といわなければならない。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第一号証の九(本件特許出願公知公報)によると、本願発明の要旨は、「微粉状光導電材料とフイルム形成用の材料又は液状媒体との混合物を被覆又は含浸した紙又は熱硬化性或は熱可塑性可塑物の基体を有し、混合物はその表面に暗黒時電荷を保持するに充分な誘電性質を有し、光導電材料は紫外線、可視線、赤外線を含むスペクトル内に在る或る波長又は波長帯の光輻射に露出された時、且つその場所の前記表面を放電し得ることを特徴とする静電的印刷に使用する調製基体。」にあることが認められる。そしてその発明の詳細な説明の項には「従来提案された静電的印刷法は光導電性絶縁材料面を有する導電性裏張板を使用し、その絶縁材料面に最初暗黒又は減光中で静電荷を一面に与え、之に続いて前に述べた像形成処理を行う。次いで粉末を以てより適当な裏張部材(例えば紙)に転写しそれに定着する。この際像を形成する粉末を乱してはならないから転写は慎重を要する操作である。光導電材料に普通硫黄、アントラセン、アントラキノン、各種形状のセレン及び之等材料の混合物又は化合物を使用している。又紙に金属製裏張部材を取付け、紙に光導電材料を含浸させることが提案された。」と従来の静電印刷法を説明したのち、「本発明は像形成中導電性裏張板又は金属裏張部材を必要とせず、又記前の転写工程を省略したものである。従つて本発明では絶縁材料例えば紙、繊維素薄板、熱硬化性又は熱可塑性材料及び容易に利用し得る他の材料上に恒久的実体像又はその図形を直接形成させることが出来る。」

と記載し、更に

「本発明は前に説明した公知の光導電材料の代りに一般用に推奨される光導電体として酸化亜鉛を又は特定乃至は特種の目的に他の金属塩を使用する。(中略)斯かる光導電材料を微粉状にして絶縁性フイルム形成液状媒状に懸濁し、その媒体を紙又は基体に被覆し或は含浸させた後乾燥させる。このようにして製作された基体は従来の方法のようにその全面に静電荷を与えることが出来るが、その後の露出、粉末の振撒き、粉末像の定着は総てこの同一基体(導電性裏張部材に非ず)上で直接行われて最終像が形成される。」

「光が帯電面2に投射する時は電荷は光の強さと露出時間に関係して低下又は除去される。」

「この印刷法で良い結果を与える他の形の酸化亜鉛はその色が赤色、淡黄色、鮭肉色又は褐色のものである。(中略)特殊目的に使用される他の有色光導電材料は帯黄オレンジ色の沃化鉛、鮮黄色の三硫化砒素、汎色性の黒色セレン化カドミウムである。振撒くべき粉末は淡色調のものが要求され例えばけい酸マグネシウムである。

光導電材料に選定し得る他の金属塩群はカドミウム、水銀、アンチモン、蒼鉛、タリウム、インジウム、モリブデン、アルミニウム、亜鉛の各酸化物、各テルル化物又は各沃化物又砒化カドミウム、クロム酸鉛である。」

「粉末現像剤は不治性でかつ正又は負の検電性質を持つていなければならない。(中略)最初の電荷の極性が粉末現像剤の極性と逆であるならば、印刷は物体の陽画であるが、最初の電荷と検電粉末が同一極性である時は印刷は陰画であつて、粉末は大部分静電荷像の放電区域縁部に附着する。」

等と詳細に説明されていることが認められる。

三、一方原本の存在および成立に争いのない甲第四号証の一、二によると、審決が引用したJournal of the Optical Society of America(1948年発行Vol. 38, № 12)第九九一頁ないし第九九三頁には、審決が指摘しているとおり「多数の物質が光導電塗布の良い支持体として使用されていること、光導電物質よりも低い電気抵抗を持つ各種の紙、硝子、プラスチツクの上に光導電物質が附着(沈澱)された場合、これは充分な機能を果すものであること。」が記載されているほか、さらに「光導電性の層を支持体上にデボジツトするには蒸着Evaporationが適した方法である。」、「光導電材料としてはアントラセン、硫黄、セレン等が用いられる。」、「光導電性の被膜上に光をあてると電荷はその光量に比例して漏洩する。」「感光板は金属のような導電性の支持体上に在る光導電性の被膜よりなつている。」

等の記載があることが認められる。

四、そこで本願発明の要旨と引用例の記載事項とを対比し、原告主張の差異の有無につき考えるに、

(一)  引用例の感光板も、本願の調製基体も、ともに光導電性物質からなる薄層をその表面に有するものであるから、両者ともに光輻射によつて光導電性質物質の薄層が導電性に変じ電荷の移動が生じて乾燥写真を得るという根本原理に於ては差異を有しないものと考えられ、また、前記のように光導電性物質の支持体としては引用例でも本願と同様に紙、プラスチツク等を使用し得ることが認められるから、この場合、両者の感光材料は光導電性物質の帯電状況を度外視すれば均等の構造と性質を有するものと考えられる。

しかしながら、明細書及び引例の記載に徴すると、両者は作用効果に於て明らかな差異を有することが認められるばかりでなく、本願の特許請求の範囲には次項に指摘するような、引用例に記載されていないいくつかの事項を要件として包含することが認められる。

(二)  引用例では、光導電物質としてアントラセン、硫黄、セレンを用いるとあるに反し、本願では種々の金属塩類や金属酸化物を用いる旨明細書中に説明してある。もつとも、本願の要旨においては、単に微粉状光導電材料とあるだけであるから、その種類についてなんら限定がないものの如くであるが、発明の詳細な説明の記載に徴すると、前記のとおり「公知の光導電材料の代りに一般用に推奨される光導電材料として酸化亜鉛を、又は特定乃至は特殊の目的に他の金層塩を使用する。」と説明されておることが認められる。

そしてこの記述は明らかに導電材料についてその使用可能な範囲を限定するものであるから、本願の要旨認定にあたつては当然この限定に従うべきもので、本願の特許請求の範囲に単に「微粉状光導電材料」(この表現が必ずしも最適のものとはいえないにしても)とあるからとて、直ちこれを「任意の微粉状光導電材料」の意に解し、本願の光導電材料がアントラセン、硫黄、セレン等公知の物質を包含すると解すべきものと考えることはできない。

従つて引用例と本願は使用光導電材料の種類を異にするものといわねばならない。

(三)  さらに、光導電物質被着の方法につき、引用例には単に「デポジツト乃至蒸着の手段が記載してあるのみで、光導電材料と「フイルム形成材料」との、または「フイルム形成材料含有液状媒体」との混合物で支持体を被覆しまたは含浸することについては全く記載されていない。この点に関し被告は、附着の手段として蒸着、塗布、含浸以外には考えられないから引用例と本願は区別ができないと主張しているが、本願は明らかに引用例の蒸着とは異なる手段を採用するものであり、しかも引用例によつては、光導電物質が蒸着されたとき静電印刷としての性能を発揮し得ることを知り得るに過ぎず、フイルム形成材料又はこれと液状媒体の助けをかり、これによつて光導電材料を支持体に被覆または含浸しても引用例と同等または以上の効果を奏するか否かは全く不明というほかはない。しかも、本願は単に微粉状物質をフイルム形成材料等と混和して支持体に塗布または含浸させるというものでなく、塗布又は含浸物に一定の光導電効果を期待するものであるから、引用例と別異の技術に属するものといわざるを得ない。

(四)  以上のように本願は引用例と、使用光導電材料の種類および支持体への被着の状態(フイルム形成材料を含むか否かの点で被着の状態は異なるものと考えられる)を異にするものであることが明らかである。

しかも光導電物質被着の方法につき、引用例は蒸着以外の被着手段についてはなんら示唆されていないから光導電物質とフイルム形成材料との混合物による被覆または含浸に関して、公知例またはこれを示唆する文献を示さずして引用例から容易に実施し得ると認めることはできないものというべきである。なお、被告は本願明細書中における「光導電物質による含浸は公知である」旨の記載を指摘して、引用例には附着手段が具体的に記載されていないという理由で本願方法と引用例とを実質的に区別することはできない旨主張しているが、本願明細書における前記記載から「含浸」なる手段が公知であると認めることはできず、かつ、本願の含浸が特定の光導電材料とフイルム形成材料との関連においてなされるものであることを考えれば、この点に関する被告の所論は採用することができない。

五、以上のとおりであるから、本願の発明は引用例記載内容と一、二の一致点ないし類似点を有するものではあるが、発明の構成に最も基本的な地位を占める感光材料の構成において両者は明らかな差異を有すること前記のとおりであり、これから容易に本願に到達し得るものとは認められないから、引用例から当業者が容易に実施し得るとした審決は審理を尽さず、理由不備の違法あるものとして取り消されるべきものであつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事原増司 判事福島逸雄 荒木秀一)

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